☆ これは母と私と飼い猫『たま』を題材に作った連作です。



母・息子・猫の会話がはずむ夜


母曰く数えで齢は九十三


母はまだ食に意欲を持っている


食べたくて週に三度は魚さばく


物忘れ南京ソウル今少女


味噌はどこ朝の一刻足に猫


仏壇のうえから猫は母守る


精霊は猫のまなざし母包む


父を恋う母は忘却していない


ごった煮のまま共依存父帰る


恍惚の人を幼児と看做すまい


ゆるゆると言葉を探す 待っている


終活を始め思い出切り捨てる


従弟の名 遊んだ記憶霧の中


百聞の被爆体験ナマのまま


語られて分ちあえないもどかしさ


無縁塚被爆二世として詣る


教え子の顔と名前が蘇る


足ることを知って思いのまま生きる


極楽へ前がつかえて待たされる