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転載 8. [絶句]

 ☆ どうして漢詩なんかを作るのかと云えば、それは大学時代・・詩吟部に入り日々鍛錬していたのだが、高校の時 応援団に居てせいで喉をつぶしていたせいで声がうまく出ず悶々としていた時、師範から漢詩の手ほどきを受けのめりこんだのが今に至っているのです。実を云えば高校の時、現代国語の教師が授業時間に杜甫の春望を吟じてくれたのが鮮明であったことと、漢文の授業では詩文の七五調訳を得意にしていたことなどが下敷きにありました。詩吟の師範が中国文学の専攻であったことも、私らに作詩を教えるきっかけになったようで、「吟じる」前に対象の「詩」のほうに私の関心が強かったことから徐々にそちらに軸足を変えていくようになりました。今でも最初に作った詩を覚えています。それは五言絶句でこんなものです。


     対飲清空裏

     星稀客夜長

     霜楓明月宴

     落落酌雲觴


       対飲す清空の裏(うち)
       星 稀にして客夜(かくや)長し
       霜楓(そうふう)明月の宴
       落落 雲觴を酌む
 今からみれば用語にいささか難があるのですが、面白みはなくても神仙思想を夢見るような発想をしていたのだなぁと・・考えたりします。絶句に限らず色々な詩形を試み、鍛錬もしましたが対句を使う律詩、排律や宋詞にはじまる塡詞などは音韻に詳しくないものには、難しいうえに面白みをとらえにくいところがあり、もっぱら絶句ばかりを作るようになりました。対句をひねり出すような熱情というかエネルギーが湧いてこないのも事実です。十数年は忘れていたのですが、最近また手を染めるようになりました。
 さて近作を並べます。

白木蓮旬日笑

満街春意自喧

断絶境涯風刻

青天料峭欲翻


白木蓮旬日の笑(え)み

満街の春意 自(おのずか)ら喧(かまびす)し

断絶の境涯 風の刻(とき)

青天料峭として 翻(ひるがえ)らんと欲す


六絶拗体  偶感 上平声十三元韻

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仰いでも弦の見えない手風琴



雲帯黄風料峭

彷徨夢日月間

離脱症候猶有

酒軽信義太頑


雲は黄を帯び風は料峭たり

彷徨(さすらひ)の夢は日月の間

離脱の症候 猶 有するがごとく

酒は信義を軽んじて太だ頑(かたくな)なり

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偶感 六絶拗体 上平声十五刪韻


無門関 茶を点てている四畳半



等閑相結了

不説已昏黄

独弄飛梅事

微吟歩柳楊


等閑(とうかん)に相結び了(おは)りぬ

説(と)かず已(すで)に昏黄(くれなず)むを 

独(ただ)飛梅(とびうめ)の事を弄して

微吟 柳楊に歩む


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遇感 五絶平起式 下平声七陽韻


眉を刷く暗い御空に冬の月  



雲低(た)れて雨を催(もよほ)す 屛居(へいきょ)の東

春気溢横(いつおう)残日の風

一帯の暗香 梅裏(ばいり)の客

鴉群(あぐん)帰りなん 故山の中(うち)


雲低催雨屛居東

春気溢横残日風

一帯暗香梅裏客

鴉群帰去故山中


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春日黄昏歩岸偶成 七絶 平起式 上平声一東韻


雲はたれこめ今にも雨になりそうな気配が(引きこもっている)我が家の東の方に覗える。

辺り(あた-り)には春の気分が溢れ 黄昏れの風が軟らかい。 辺りに立ちこめる微かな香り その梅の中に居て、 上空の鴉の群れも居場所の山に帰ろうとしている。


恋情の雪に塗(まみ)れて路の辺(へ)に黄昏れゆきてただの花びら



午閑天可訴

九月雨寥寥

欲問無情処

何為躁晩蜩


午(ひる)閑(のどか)にして天訴うるべし

九月の雨は寥々たり

問はんと欲す 無情の処

何為(なんす)れぞ晩蜩(ばんちゅう)の躁(さわ)がしき


被触発歌謡曲即吟

歌謡曲に触発されて即吟す ※「蜩」は「ひぐらし」


五絶 平起式 下平声ニ蕭韻


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春めくや百家争鳴舞台裏



篁裏垂紅怨

雨含清艶幽

崎陽梅点点

疑雪路辺遊


篁裏(こうり)紅怨 を垂(た)る
雨は清艶を含みて幽(かす)かなり 
崎陽(きよう)梅 点点たり 
疑うらくは雪の路辺に遊ぶかと


煙雨観梅即吟 五絶 仄起式 下平声十一尤韻


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不堪聞是隔林鐘

一帯紅霞万緑濃

牀上余薫後朝別

梨花銷夏点晴峰


聞くに堪えず是れ林を隔つるの鐘

一帯の紅霞 万緑濃し

牀上の余薫 後朝(きぬぎぬ)の別れ

梨花 夏を銷して晴峰に点ず


遇成  七絶 平起式 上平声二冬韻


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哀しくて聞くに堪えないのは林を越えて来る鐘の音。 一帯には躑躅の紅 山の木々の緑は濃い。 ベッドに残る匂いは今朝 別れたあなたのもの、 初夏の寝苦しさを削ってくれる梨の花は 遠くに見える峰に点じている。


ひとり寝のベッドの上の残り香やたらちねの母想ふごとくに



個的精神個的天

感来傷柳帯寒煙

流光月下声凄艶

独臥窓中足酔眠


個的精神 個的天

感じ来たって傷む 柳は寒煙を帯びたり

流光月下 声 凄艶

独臥 窓中 酔眠足る


日業前遇感を佳君に寄す

日業前遇感寄佳君


七絶 仄起式 下平声一先韻


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一個の精神は一個の天に匹敵する。 感じることのあって柳の薄ざむい靄を帯びている様子を哀しむ。 満天の月の下 あなたの声は凄みと艶を感じさせる。 独り寝そべる窓の中 私は酔うて眠っている。


衣々のあなたの中に眠る朝 幽(かそけ)き夢や月有り明けに



塵境及時成賦

巷間声不堪聞

月白色銀天漢

山桜暗放春芬


塵境 時に及びて賦を成す

巷間の声は 聞くに堪えず

月白色(げっぱくしょく) 銀天漢(ぎんてんかん)

山桜(さんおう)暗くして 春芬(しゅんぷん)を放つ


偶感  六絶 拗(よう)体 仄起式 上平声十二文韻


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社会にもまれて折りに触れ写実の詩を作る。 しかし、巷間の声は 聞くに堪えない。 月白色はたまた銀天漢といい、 これこそ心を慰めてくれる。 山桜(やまざくら)の姿は、ほの暗く 春芬(しゅんぷん)〈春の香り〉を放っている。


満ち足りて大空占むるほのぼのと月白色の明かきあかあか



風比江天彩筆飛

不眠梟夢対流暉

山中蚕室別雲色

落下傘尊螢燭微


風は江天に比(なら)ふて彩筆を飛ばす

不眠の梟夢(けふむ)は流暉に対す

山中の蚕(さん)室 別雲の色

落下傘は尊ぶ 螢燭(けいしょく)の微なるを


偶成  七絶 仄起式 上平声五微韻


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風は山河を見習って彩りの筆を揮って色を加えてゆく。 不眠の梟の夢は過ぎ去る年月に対峙するかのようだ。 山中にある宮刑の囚人の部屋は全く別の色を成すようで、 落下傘は蛍の明かりのようなかすかな光を尊ぶのさ・・。


むらさめの打ち来たりける午後なれば襲(かさね)をはおり松の声聴く



日日煩悶理外縁

酒杯傾尽老来癲

甲東山畔浮生処

梅裏佳人霹靂天


日日(にちにち)の煩悶 理外の縁

酒杯傾むけ尽くして 老来 癲(くる)ふ

甲東山畔(こうとうさんぱん)生を浮かぶる処

梅裏(ばいり)の佳人 霹靂(へきれき)の天


日々(ひび)の煩悶は まさしく理外の縁のこと。 酒杯を傾けつくして 追い来たっては 竟(つい)に癲(くる)ってしまった。 六甲山の東側に人生を浮かべたはずの処がある。 梅花乱れる裡(うち)に住む佳き人にとっては霹靂の天であったろう(そんな別れだったよ・・)


偶成其之二  七絶 仄起式 下平声一先韻


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梅の香に酔ふとはなくて十六夜の月に誘はれ君と遊びき



東海消憂点点閑

寂光雲外照春山

旅懐応発青天麓

梅裏多情瞰小湾


東海憂いを消して点点 閑(しずか)なり

寂光 雲外 春山を照らす

旅懐 応(まさ)に発(ひら)くべし青天の麓

梅裏の多情 小湾を瞰(み)る


偶成其之一  七絶 仄起式 上平声十五刪韻


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列島 酒で憂いを消し ぽつぽつと静かな境地。 寂しげな光が雲の外に 春の山を照らしている。 旅情はまさに青天の麓に開かれようとしている 梅の花が咲き、その思いを込めて(鳶は)小さな入り江を見下ろしている。


おそ咲きの実梅ゐ並ぶ春の日に入り江見下ろすとびの遊弋

好きだったそう言えば良かったのかい午後5時の鐘 丘から丘へ




自遣微風暮色寒

満枝寥寂雪情閑

海東塵境千年酔

遊弋鳥臨梅裏湾


自遣  七絶上平声十五刪(サン)韻 (みづから 自らを慰める)


みづから微風に遣る 暮色寒し

満枝の寥寂 雪情 閑(しづ)かなり

海東の塵境 千年の酔(すい)

遊弋の鳥は臨む 梅裏(ばいり)の湾


みづから微風に 自らを慰める 夕暮れの気配は寒い。 枝に満ちる梅の雪のような情感に(その静けさに)心惹かれる。 (大陸から見れば)海東の地に当たる列島の現実はまるで千年の酔いに耽っているようだ。 海上を監視するかのように飛ぶ鳥の目に この一斉に開いた梅に染まった入り江が見えていることだろう。


目の奥に飛びこむ風の鋭さに雀鳴きやむ木立の前で



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