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長崎忌~母の記憶をわがものに [短歌]

 あれから74年という時間が過ぎたわけだ・・。母の作話かもしれないが、真実めいて響くものがあるのは確かなのだ。今は南島原市となっているのだが、なぜそこにいたのかは語らずも 加津佐町津波見(つばみ)のあたりをバスに乗って通っていたとき、11:02。中心が赤い火球を海を隔てて長崎方向に見たという。同乗の将校(?)がすぐにバスを止めさせ乗客(二人だけだったという記憶)を下ろし、防空壕に入れ!と命じられながらも もう満員だとおもい、その火球を見ていたという。それから翌日、夢に(原爆の直撃で亡くなった)父(私にとっては永遠に会えない祖父なのだが・・)が『熱か! 熱か!・・』と口走りながら 空を飛んでくる・・長崎からまっすぐに・・白いシャツのようなものを着て・・という断片をいまだに忘れられないと話してくれた。母(私には祖母)に話したらしいが、どんな返事だったかは覚えていないらしい。そのときにはもちろん原爆のことなど知らなかったわけだが、母たちは長崎に向かったと思われる。母たちの被爆は「入市被爆」だと、私は考えている。そうでないと、母を含めて家族が被爆認定を受けていることと整合性が成り立たないからだ。それとも、母の記憶の混乱だろうか‥?祖父についてのエピソードは数えるくらいしか知らないが、本当に懐かしそうに語る母をとおして血脈の不思議を思っている。母の言葉をなぞって定型に仕立ててみた。



     

   飛んでくるアツかアツかとしかめっ面 白いシャツ着て家族のもとへ

 

   結局はなにがなんだかわからない赤い火の玉じっと見ていた

 

 

   それぞれの昔と今が重なってとぎれとぎれに息止まりそう

 

 

 

 

  

      

     


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母の記憶 [短歌]

  母の昔語りはいつも唐突に始まる。私はそんなときじっと聞くことにしている。否定などしない。むしろ記憶をほどいてあげるように仕向ける。雲仙市南串山町(1945年当時は南高来郡南串山村)にかつて特攻舟艇の秘密訓練基地があったようだ。敗戦の玉音放送があった数日後、そこの下士官と思われる(将校かもしれないが)人物から(日本が)負けるわけがないと(玉音放送の是非を尋ねたところ)即座に否定したという。母らはその放送を聞いていなかったらしいが、噂として流布していたようだ。現在から思えばすべての日本人が聞いたのだろうと信じていたのだが・・。当時の混乱と情報秘匿の実態を垣間見る思いで耳を傾けた。秘匿基地のことは以前から断片的に聞いていたが、『玉音放送を聞かなかった』とは初耳であった。そのとき、昭和天皇はまだ現人神であったはず・・。そう叩き込まれて(今にすれば洗脳されて)育った人間にとっては まさに青天の霹靂・・信じることのできない事件であったのも肯ける。皇居(当時は宮城と云った)前の広場で泣き崩れる人々のあのフィルムは誰が意図して撮影したのだろう。これも今から思えば不思議ではある。誰しもやむなくそのこと・・(現人神の声を聴いたことのない人々のはずなのに)敗戦(終戦という言葉に置き換えていたが・・)ということを事実として受け入れたのだろうと思っていた。意図された謀略、デマ、流言として受け止めても不思議ではないのではないだろうか?



      まだ神でありし言葉を聞かざりと母の語れる七十四年


     疑ひを持てば誰にも非国民呼ばはりされし時代望まず


     特攻の舟艇基地の下士官の敗戦否定 母のなづきに



  母の記憶にしまわれてきた歴史の断片を手掛かりに、現代のこの情報過多社会に生きるものとして なにか相通じることはないかということを考えている。・・洗脳されてはいないか・・・と。

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持ち時間を倦まず巧まず [短歌]

 たいしたことではないのだが、いや大した事かもしれないことに気づかせられる時がある。たいがいは出かけるときには眼鏡は必需品だ。元来、近視なので無かったら危ないことこの上ない。殊に長崎に越してきてからは、階段が多いので踏み外すととんでもないことに出くわす。一段踏みそこなって何度怖い思いをしたことか・・・。だが、家に帰ったらすぐに眼鏡をはずしてしまうのも習慣になってしまっている。外していても然程不自由を感じない。それだから、うっかり眼鏡をはずしていながら外出してしまうことが間々あるようになってきた。これは老いの兆候かもしれないと、ふと、思う。今日は最近ふと思ったことを定型に載せてみた。ただごと歌なのだが・・。    


     私には祖父の命日ヒバクシャが見えない人にはただの九日


     仏壇の下にごきぶり追い詰めて紙を丸めてすき間を塞ぐ



     劇的に老いがくるのか ほれそこにいま泥沼が押し寄せてくる


     うかうかと眼鏡忘れてきたことに気づき手摺を探る右の手

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共通テーマ:日記・雑感

雑感三首 [短歌]

 昨夜 風呂場の排水口を掃除しようと蓋を開けてみると なんか様子が変なのである。黒い、あまりにも黒すぎる。懐中電灯を持ってきて よ~く見ると なんと!塩ビ管の周りの水受けの部分が腐食して抜け落ちているではないか。盛り上がった土やら釘やらが見えるのだ。さても夜中に大家さんを叩き起こすほどでもあるまいと、今朝、連絡したところ、飛んできて確認しながら「どうやって塞ぐか」と写真を撮りながら、金のかかる工事のことなんか端から考えてない。工事業者に聞いたのか、昼過ぎに再びやってきて小石を詰めだすじゃないか! 聞くと 水中ボンドで塞ぐと言う。なるほど・・と思う間もなく15分ほどで完了。今日はシャワーは無しですよ‥と言い残して帰っていった。「滅多にあることじゃないですな‥」と云いながらも、なんとも 呆っ気ない話ではある。


 大家さんが帰ってしばらくすると 「狐の嫁入り」かと思えるようなひなた雨が降り始めた。と思いきや急に雨脚が強くなり 瞬く間に視界は真っ白・・・。見ると青空は消えていた。 10分ほどのミニ・ゲリラ豪雨であったのだが、止んだ後に残っていたのはむせ返るような土の臭いと熱気である。それから例によって、点滴に通院。全開放で落とすので40分ほどで終了、帰宅。思い立って家具の配置換えに取り掛かって気が付けば夜になっていた。



   雑感を三首ほどひねり出す。



  歩くたび躰の塵が剝がれ落ちいつでもそれを拾ってしまう


  思い立ち家具の配置を変えてみる母の血筋が濃くわれにある


  野良の雄ブロック塀の片陰に段を枕に腹をそよがせ



 ラジオから「見上げてごらん 夜の星を~(^^♪  」が聞こえてきた。そろそろお経を読むには制限時間いっぱいだ。

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誤用の「通奏低音」のようなもの [短歌]

  ☆見るからに物はあれども飢え渇きこころをただに持て余すのみ


 どこをどう手繰っても自らの限界を破りぬけることは不可能に思える。ことばの鍛錬不足というより、内にこもっていた時間が長すぎたのだろう。酒を飲んで、酩酊のうちに自己満足していたことが・・つまりは外に向かって探求してこなかったツケがこうして今、たどたどしい言葉遣いになってあらわれていると 密かに悔やんでいる。だからといって、すっかり諦めているのではないのだが・・。「余生」という冠詞をいただくわけにはゆかない。熟年というステージは閉鎖回路ではなく、むしろ多岐にして猥雑な開放空間なのだと思っている。



  血の系譜無くして与えられしもの処方箋なぞ無きに等しき


  素裸に蒸しタオルもて陰茎と寝汗拭いて朝霧を吸ふ


  蝉の声思はぬことに流されて友でありしかいまは亡き身の


  なまなまし喪服の下に蠢くはうたかたびとのゆきずりの指


  わが胸の仮面の裏にはらはらと打ち毀れゆく纏ひけるもの


  醒めくれば鏡の中に一個たり60兆の細胞にして


  短命のヒト生まれ死ぬるはうたかたの一生(ひとよ)に如(し)くは無きとぞ思ふ

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共通テーマ:趣味・カルチャー

和歌の気分で [短歌]

☆和歌の気分で作ってみました。名付けて短歌古調6首


さわさわと弧悲なる言の葉に寄せて妹が魂とぞ触れなばとなむ


いづくとも憂き世と思ふ日に夜に常無きことのほかなるひとつ


うつせみの人弧悲しさをさりげ無くゆたにたゆたに雨の声聴く


うつし世と隔つる幕を透るべく恒なる里へ水流れゆけ


ひとり住む小島の谷に玉藻なす寄る辺無き身ぞ草にかぎろふ 


隠れ処(が)に玉萎ゆる草養ひてえにし結ばむわが友として

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「躁」になってからの短歌 2018・10月末からクリスマス・イヴまで [短歌]

☆私には双極性感情障害という厄介な病気があります。気分が周期的に変調をもたらすもので、自分では何とも対処に困る状態に置かれます。精神薬で調整はしているのですが、万能であるはずもなく、『躁』の時期が2018年10月末くらいから2019年1月末くらいまで続きました。それが終息すると『鬱』へとなだらかに移ってゆくことになり、心は平静を取り戻します。



うらうらと小春日われにさりげなく 五万送れとサイトの脅し


草だけが割れ目に根づき生きている 排水溝に秋の雨降る


疎まれて看取る者さえ居ないとは 酒歴語った人今は亡し


海峡を越えてきたのか冬の雨 真夜の瓦を叩く音聞く


山間(やまあい)に灯ほのか温かい 人の営み歴史の吐息


涙腺のゆるんでひとり口ずさむ そは あの時の惜別の歌


手に余る暇と孤独に傷ついて アンモナイトの夢に寄り添う


夕焼に裸をさらす桜木の枝に重ねる 春への思い


いちどだけ隣り合わせの危うさを心に許す その出会い系


追いかけてみたいと思う 背を向ける影踏み抱いてみたいと思う


北の棘呼びこむ雲に包まれて 季節はずれの風にやわらぐ


引き潮の跡を踏みつけ雨雲のたゆたう水際 砂掬う昼


ありのままことばは透けてしまってる タバコを溝に投げる曇天


出会い系見果てぬ夢の中に居て恋の予感に狼狽えている


有り金をつぎ込んでいる月曜日 電車通りの煙草屋に寄る


輪の中に何があるのか戸を叩く 信じあいたい友を求める


逃げ水のような女であるらしい 雲はたちまち氷の粒へ


ひとかけらちぎってくれる掌に豆粒大のつぶれた甘味


午後の日が桜の枝にさんざめく 足にまとわる猫の喉声


北の窓指折りながらジャズを聴く真夜の風には雪の匂いが


古傷の仕事の臭う衝迫にだまされてみる価値はあるのか


ほのぼのと午後の日動く傍らを野良の猫ゆく一匹二匹


寂しがり熱きを避けて暗がりのベッドの下に猫は腹這う


寝転がる猫の背中に手をやれば腹の上下が指に伝わる


あまりにも男のエゴがうとましい 自転車押して遠回りする


寂しさに負けぬ路傍の草となる これ見よがしにクレカかざされ


感情の裂け目に君は蹲る クレカは僕に遠い存在


ごみ箱に捨てた未練を確かめつ 押しつけられたメールを削除


なづき野の藪をかき分け拾いだす まだ温かい母の昭和史


裏窓の結露に気づく 真昼間の街にかぶさる厭戦気分


真夜中にアルトサックス絡みつく 私を捨てる君の微笑み


まだ凍る夜のとばりの薄氷を裂いて心を解いてあげたい


眩しくて顔をそむけることもある 人間だもの酔っぱらっても


瞬く間よぎる思いにとらわれて時間旅行を楽しんでいる


間もなく朝の駅に着きます 案内の声は静かに耳にしみ入る


まだ遠い遠い しがらみの中手探りに絆もとめる人の距離感

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現代短歌は乾ききっているというのか [短歌]

 ☆ たとえば目の前を飛び遊んでいる小蠅一匹をどういうふうに歌に詠みこむか・・大上段に振りかぶることなくいかに対象化するか~そんなことにおもしろさを感じてしまいます。小さいと言ってしまえばそれまでですが、小蠅の複眼で見る世界も面白いと思います。餌もないだろうにどうやって生き延びているんだろうとか考えてしまうのです。



悲しみを己愛の海に帰すときさゞなみさえも津波となって


ひそやかなときめきさえも弓なりに曲がる光の電気信号


生きるためわたくしごとのただうたを みそひとおとにのせて吐きだす


露出して だからどうなの百億の戦後万葉いまも彷徨う


左翼的ステロタイプに掬われる戦争うたなど私は詠まぬ


ひとくれの散文論じゃ癒されぬ 調べと響きわが胸にあり


疑問から始めよ両の手のひらに物差しいくつ世界を見よう


花ざぼん凍らせようか論戦の果てに奇妙なこの安堵感


甘い夢いざなう波の引き満ちるときの泡沫(うたかた) 星の営み


流れ星スッとどこかへ消えてゆく歌の墓場はいずくにありや

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転載 9. [短歌]

 題詠100首★2019に挑戦しました。これで2回目ですが、けっこう難しくて短歌で題詠というのはテーマがあるから一見易しそうですが、深く読みすぎてもおかしくなるし・・川柳でいうところの「字結び」(与えられた字を必ず使わなければならないというルール)なので、連想とことばの蓄積が問われるようなのです。※なお( )内の「酒害体験」は、今回に限ってのハンドルネームです。



2019-001:我(酒害体験) っていうか我とわが身の置きどころどこにもなくて膝を抱える


2019-002:歓(酒害体験) 歓喜の歌を聞いてる地割れした活断層の古い段差に  ※歓喜(よろこび)

2019-003:身(酒害体験) 虫喰いの身ではないかと振り返る四十年間酒に溺れて


2019-004:即(酒害体験) 花筏即(つ)かず離れず流れゆく なあ俺たちこれでいいのかい

2019-005:簡単(酒害体験) 簡単に気合を入れるときれいごと酒を飲まなきゃ何もできない

2019-006:危(酒害体験) 何度でもチャンスはあった酒を断つ へど吐き血を吐き命の危険

2019-007:のんびり(酒害体験) のんびりと年を越したか砂壁の黴よ お前の世界は広い


2019-008:嫁(酒害体験) 嫌いだと写真をくれた人 嫁になれよと言ってしまった


2019-009:飼(酒害体験) たそがれる気分のままに春嵐飼い馴らせない虫を宥める


2019-010:登(酒害体験) 白壁の街に埋もれる風の道 知らないうちに登る山坂


2019-011:元号(酒害体験) 元号がなければないで困らない ひらがなだけの元号もいい


2019-012:勤(酒害体験) 勤行を終えて四月の雨を聴く断酒会には行かねばならぬ


2019-013:垣(酒害体験) 朝露の垣のしずくに透かし見る色は光の与える力


2019-014:けんか(酒害体験) アル中の弟何をわめくのか けんかをしても何も生まれぬ


2019-015:具(酒害体験) ふと思う私なんかでよかったら誰かのための道具になれば


2019-016:マガジン(酒害体験) 胸うちに屈していてもマガジンの記事に魅かれる光明を知る

2019-017:材(酒害体験) 薄闇に枯葉が路に跪(ひざまず)く歩けば歌の材にも出会う


2019-018:芋(酒害体験)  片夢の中に埋める芋づるの言葉きれぎれ声にならない


2019-019:指輪(酒害体験) 片頭痛ブラックアウト醒め果てる指輪の跡に歪(いびつ)な軽み

2019-020:仰(酒害体験) 仰いでも師の影踏んで夢の果て迷惑ばかりかけてきたのか


2019-021:スタイル(酒害体験) スタイルと云えばそうかも知れないが吹かない風を通して過ごす

2019-022:酷(酒害体験) ごめんね!ごめん酷い話の縁結びアナタの時間抱いてあげたい


2019-023:あんぱん(酒害体験) あんぱんを食べて血糖値が上がる?それでも私あんぱんが好き

2019-024:猪(酒害体験) 筍の皮はほどよく小さくて林の中に猪(しし)の土風呂


2019-025:系(酒害体験) 霧に倦む菜種梅雨とは今さらに星の系図を足もとに見て


2019-026:飢(酒害体験) 花は花あなたの前にさらけ出す飢えていますと酔いにまかせて


2019-027:関係(酒害体験) 響きあう関係あろうとなかろうと男と女されど人間


2019-028:校(酒害体験) 夕まぐれ記憶回路に火花散る転校生は肩聳やかす


2019-029:歳(酒害体験) 令和にも歳のかげりはあるものを一日断酒ひたすら誓う


2019-030:鉢(酒害体験) 寄せ植えの鉢の根っこは絡み合い 金魚を池に放せば太る


2019-031:しっかり(酒害体験) 花栗の精を押し退(の)けしっかりと朱欒(ざぼん)の香り部屋に住み着く

2019-032:襟(酒害体験) 情念の乾びるままに襟足をなぶらせながら庭を掃くひと


2019-033:絞(酒害体験) 絞められて寂しいものと葦の輪のかなたに何を見るというのか


2019-034:唄(酒害体験) にわたずみ川のなみまに唄音(ばいおん)を重ね重なる風のいたずら

2019-035:床(酒害体験) 月灯り微かに射せり魂のあなたの来たり今も床旧(とこふ)る


2019-036:買い物 (酒害体験) 夏草の真っただ中に分け入って買い物袋置いて寝転ぶ


2019-037:概(酒害体験) 概ねはあなたの言葉そのままに信じています 夜叉の裏顔


2019-038:祖(酒害体験) 祖神(おやがみ)の草に埋もれて守りいる無常の風に思い重ねる

2019-039:すべて(酒害体験) ふつふつと五月の微熱騒ぎ出す前頭葉の皺のすべてが


2019-040:染(酒害体験) わが心(むね)を染めつつ朝のひかり生(あ)る唐八景の芝のささめき

2019-041:妥(酒害体験) あなたへの思いに妥協したくないラインじゃ匂い送れないから


2019-042:人気(酒害体験) さきくさのなかに隠(こも)れる山神の人気なき径石の苔むす

2019-043:沢(酒害体験) いくつもの無名の沢を渡りゆく宮摺までのやまなかのみち


2019-044:昔(酒害体験) 何度でも何度でも聞くお袋のたどたどしくも息づく昔


2019-045:値(酒害体験) 一円の値打ちのなかに秘められる未来志向という名の坩堝(るつぼ)

2019-046:かわいそう(酒害体験) ひとりぼちかわいそうだと思うまい酒害に疲れた母子を想う

2019-047:団(酒害体験) 地団駄を踏んで仏の顔ひとつ三枚舌を持てぬ島国


2019-048:池(酒害体験) 古池の葦も魚も骸骨も埋めて築いた家に住む人


2019-049:エプロン(酒害体験) エプロンをはずし忘れる人だから君が楽しいなんとはなしに

2019-050:幹(酒害体験) 天翔けてあなたをはっしと抱きたい聳える幹の樹液浴びつつ


2019-051:貼(酒害体験) 下垂する瞼のテープ貼り直す短歌にのめり込む真夜の淵


2019-052:そば(酒害体験) とりあえず出社の前にそば啜る習い懐かし野田の立ち喰い


2019-053:津(酒害体験) 口之津の玉峯禅寺観世音 西望翁の心奧の声


2019-054:興奮(酒害体験) 愛してないわ ただ興奮が冷めただけ孕んで酒を止めた暮らしに

2019-055:椀(酒害体験) 汁椀のふちに欠けあり唇の触らぬように確かめる朝


2019-056:通(酒害体験) 形骸に遊ぶか月の裏灼けて光も見えず通り一遍


2019-057:カバー(酒害体験) にっぽんの浜辺すべてをカバーする禁酒法案国が定めよ


2019-058:如(酒害体験) 如何せんアル中やから嗜まぬ早寝早起き朝露を踏む


2019-059:際(酒害体験) 文字ひとつ心の際にうずくまる耳にまぼろし風の切岸


2019-060:弘(酒害体験) 弘法はひとりの人の名ではない曲がり指立て飲む昔から


2019-061:消費(酒害体験) 命など朝な夕なのひとしずく消費を惜しめ阿から吽まで


2019-062:曙(酒害体験) それぞれの曙それぞれの季節風振り切って今日を始める


2019-063:慈(酒害体験) 忘却の滋訓の外に明け暮らす愛河の岸を彷徨うままに


2019-064:よいしょ(酒害体験) いつの間によいしょと声を合わせてる公園わきの九十五段

2019-065:邦(酒害体験) 合邦の付けを令和に払わせる韓半島を癒やす試み


2019-066:珍(酒害体験) ありふれている風景の外(と)に内に珍しいもの出会いを探る


2019-067:アイス(酒害体験) もしかしてアイスクリーム梓弓返る時代の先にあるもの


2019-068:薄(酒害体験) 夕月夜(ゆふづくよ)入る間ことの葉さ乱れてこぞの薄を踏むや野風の

2019-069:途(酒害体験) 抗酒剤疑いながら酒を飲む断酒途上の事実をひとつ


2019-070:到(酒害体験) とき到るもう見返りを求めない歓びだけを求めてゆこう


2019-071:名残り(酒害体験) みよ そこに確かにそれは息づいてドゥイノの館名残りの墓標

2019-072:雄(酒害体験) 愛欲の雌雄もとより一系を軽んずべからざるとは云へど


2019-073:穂(酒害体験) 娑婆世界心の継ぎ穂あればこそ散骨好けれ花を一輪


2019-074:ローマ(酒害体験) 長崎の町はローマに献げらる異教徒拒む壁のありけり


2019-075:便(酒害体験) 便利さの中に潜める落とし穴文明の果て何が待つのか


2019-076:愉(酒害体験) 愉しみは夜に取り置くお勤めを済ませてまずは夕餉の支度


2019-077:もちろん(酒害体験) 愛国で現状批判うた詠みの矜持もちろん独り善がりの


2019-078:包(酒害体験) 包まれていたいと思う愛すれば手もつなぎたいキスもしたいと


2019-079:徳(酒害体験) 徳あれば褒めよと経に書いてある般若の中の愛語というは


2019-080:センチ(酒害体験) おセンチな君と云っても通じない女子高生に鼻で嗤われ


2019-081:暮(酒害体験) 夏座敷けだるいままに暮れてゆくSNSに時を忘れる


2019-082:米(酒害体験) 米櫃の無い暮らしぶりなんとなく切り離された小舟みたいだ


2019-083:風呂(酒害体験) ここに来て風呂に浸かった記憶無しガス水道を切り詰めている

2019-084:郵(酒害体験) 不審者の多いと教える人が居て郵便受けを常にまさぐる


2019-085:跳(酒害体験) 跳躍を期して力を貯めているもうすぐそこに明日が見える


2019-086:給料(酒害体験) 平成の初めに比べ給料の額は違えど同じ小遣い


2019-087:豊(酒害体験) 豊満な躰もいいがそれよりも肌理の細かさそれこそ命


2019-088:喩(酒害体験) あのひとを喩えて云えば平成の晶子と思う愛をうたえば


2019-089:麺(酒害体験) 素麺が一番だよと口癖に母はのたまう四季それぞれに


2019-090:まったく(酒害体験) まったくのとばっちりだと云いたげに西から東梅雨前線


2019-091:慎(酒害体験) 慎んでことばを選ぶfbの不毛な会話ひとに頼るな


2019-092:約束(酒害体験) 約束を忘れた訳やないなんてどの口が言う仕事も行かず


2019-093:駐(酒害体験) なつぞらにぽっかり空いた駐車場トラック錆びてプレートも無く

2019-094:悟(酒害体験) 熱に浮かされ悟ったような顔をしてひとの話に茶々を入れるな


2019-095:世間(酒害体験) 得得と世間話にからませてあなたの気持ちわかる気がする


2019-096:撫(酒害体験)  撫でながら肌のざわめく哀しみをひしと抱いていざ夜の歌


2019-097:怨(酒害体験)  怨まれて恨むことなど忘却の穢土に死しても第五楽章


2019-098:萎(酒害体験)  どうしても湘子の俳句目に浮かぶ四肢萎ゆるとはもがいての句か

2019-099:隙(酒害体験) 青蔦がひさしと壁の隙間からにうと浮かんで風に吹かれる


2019-100:皆(酒害体験) あの日には泥鰌でしたよ魂を救う手立ては皆目なくて



◎ なんとか完走したわけですが、順繰りに投稿しなければならないし、あとから訂正するにはルールが決められていますので、推敲を放棄した歌も多々あります。期間は2019年2月から11月末日まででした。

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転載 2. [短歌]

  ちょうど躁鬱の躁にあたる季節に 押しとどめようもない気分のままに紡いだ歌群を読み返すとき 記憶にしまい込んだ・・否・・忘れてしまったはずの風景にとらわれて「ことば」となっていると気づく。しかも、現在と交錯している。


落下傘 憂いを酒に預けおく一日限りのブログの話


開かれし鉄扉(てっぴ)のうへにひとひらの梅炎 (も)えたちて春を愛(お)しまむ



蘇る日々のこと・・連作


1. 靄がかる朝の景色に融け入りて春の眠りを猫に許さむ


2. 滴りのひとつぶごとに宇宙観 よぎる鴉に色即是空


3. 目の奥に飛び込む冬の鋭さに雀鳴きやむ木立の前で


4. ひとことが伝わるならばそれでいい心壊れる前のあなたに


5. 山裾に散らばりながら東西に道の通じる西谷の村


6. 武庫川に刺し貫かれはらからの炊煙のぼる有り明けの月


7. 天頂の降りくる処コルの岸ぶらぶら節にひょうげてゐたり


8. 安定に乏しいひざの上に居てタマはさすがに眠りたいのか


9. ねむれない心どこかへ移し替え季節はずれのみなみ風待つ


10.色に暮れ黒雲渡る長崎のときにどよもす風に驚く


11.断崖の傾れのような雲の浮く仁川の傍に蘆叢ありて


12.いらだちを抑えて歩む冬の日に野母の半島 天草の洋


13.おそ咲きの実梅ゐ並ぶ春の日に入り江見下ろすとびの遊弋


14.好きだったそう言えば良かったのかい午後5時の鐘 丘から丘へ


15.梅の香に酔ふとはなくて十六夜の月に誘はれ君と遊びき


16.思ひ出の乳の匂ひに引きずられ頭も眩む春そのものに


17.子を捨てて戸を出でボヘミアン・ラプソディを観て居る男と女


18.10回も観れば厭でもわかるだろ鉄線奏でるロックの嘆き


19.山茶花のひとつ揺れ居る残寒の霧に包まれ旅立つ覚悟


20.早出しのゴミは漁られ車道まで散り敷くままに偽りの花


21.開かれし鉄扉のうへにひとひらの梅炎えたちて春を愛しまむ(再掲) 


22.昨日今日カレンダーには何もない雪もないから酒慾しくない


23.むらさめの打ち来たりける午後なれば襲(かさね)をはおり松の声聴く


24.目に視えぬ路のあるのか来迎にらせん描ける鳶の領域


25.踊り場の美しき唇その舌に夕影忍ぶ干し柿を食む



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